キャリアデザインを再考する40代男性。理想と現実の差に葛藤する
世間一般からすれば、40代の男性は収入的にも安定しており、家庭も築いて充実した毎日を送っているように見えるかと思います。ですが、実際のところそうでもないのが現実です。朝起きて会社に行き、帰宅した後は寝るだけ。もう私も若くはないので就寝前に遊んだりやりたいことをする体力は持ち合わせていません。私には自分を支えてくれる家族がいますが、唯一の恩返しといえば家計面のみ。子どもの世話は妻に任せきりになってしまっています。贅沢な悩みなのかもしれませんが、退屈と感じてしまっている自分がいるのは事実です。
思えば私は、学生時代はひたすら勉強に取り組んでいました。高校生の頃から将来的なことを強く意識するようになり、大学受験に向けた勉強も人一倍頑張っていたかと思います。努力と幸運が味方し、第1志望の大学に合格したと分かった時は、それはそれは嬉しかったのを覚えています。大学入学後も勉学に励んでいました。友達はいたのですが、彼らが遊んでいる時も、私は彼らの誘いを断ってまで図書館に篭ったりしたことがあったほどです。
このような生活を送っていた以上、いわゆる「大学生らしい生活」というものを私は送ることができませんでした。サークルに所属はしていたものの、立ち位置は気がつけば幽霊部員。ゼミでの仲間はゼミの活動外ではなんの交流もなし。今思うとこんな態度を取っていたのにも関わらず、頻繁に遊びに誘ってくれていた友人たちに申し訳ない気持ちでいっぱいです。私の学生生活は、特に新しい風が吹くこともなく終了しました。
社会人になった私は、その勤勉さがゆえに、仕事が原因となって苦労した経験があまりありません。こればかりは非常にラッキーだったなと思っています。気がつけば上司と呼ばれるような立場にもなっていたので、私はそれなりの出世街道を歩いていたと言えるのでしょう。また、私の今の妻は私が20代の頃に入社してきた女性です。彼女は私と知り合ってから数年後には寿退社しました。それから間もなく我が子も生まれ、順風満帆な人生を歩んでいると我ながら思っていました。
私が今の生活に違和感を覚え始めたのは今から数年ほど前です。というのも、若い頃は活気にも満ち溢れており、毎日を新鮮に感じていました。ところが年を取るにつれて、そういったエネルギーは失われてくるものです。その上、ある程度の立場に上り詰めてしまうと、鰻登りのような出世というわけにも行かなくなってきてしまいます。後輩たちの爽やかで希望に満ちた顔つきに引け目を感じることが増えてきました。

また、私の会社が行き詰まっているというのも事実です。私が若い頃の会社は、小規模ながらも発展の余地がまだまだ残っていました。ところが今、ある程度会社も大きくなってしまい、そういった可能性が見えてこなくなってしまったのです。もちろん、私の見識が広くなり、会社の弱点や問題点が可視化されてしまっているのも一つの要因ではあると思いますがね。なにはどうあれ、このまま定年退職まで自分や会社の衰退を味わう必要が、果たして本当にあるのかと思ってしまっているのです。
もちろんこういった私の不満を聞いた周囲の人間は口を揃えて「じゃあ転職でも考えてみたらいいじゃないか」と言います。間違いなく模範解答であると思います。ですが、転職に踏み切れない自分がいるというのは、情けないながらも事実です。もともと私は、普通であることが一番の理想であると思いながら生きてきました。安定を約束されないまま新しいことに挑戦するのは昔から気が引けてしまいます。ましてや、私はすでに子を持つ40代。自分の守るべき存在のことも考えると、冒険する気にはなれません。
私が仕事に悩んでいるのと同時期に、私の学生時代からの知り合いが、コーチングを受けて転職したという話を本人から聞きました。彼がコーチングを受けたきっかけというのが、奇しくも私と全く同じ悩みが理由でした。新卒で入社した会社に20年以上務めたものの、やりがいを失い、転職を決意。私と彼との相違点は、実際に転職したかそうでないかです。唯一にして最大の相違点です。とはいえ、彼は学生時代から冒険心の強い人間だったので、その話を聞いた時もなんら違和感はありませんでした。
彼のチャレンジ精神はさておき、私は彼の決断に否定的でした。彼も私と同じ年齢。まだ老い先が短いとは言える年齢ではないとはいえ、あまりにも遅すぎるのではないかと思いました。ところが、その後彼から話を聞くと、彼は今の転職先で非常に楽しそうに働いているようです。もちろん、もらえる給料は以前よりも低くはなったものの、それ以上に彼は仕事に対するやりがいを見出しているようです。私はなんだか劣等感に近い感情を覚えてしまいました。

彼が転職先でうまくやっている現状を踏まえ、私もコーチングを受けてみるのもいいのかなと思いました。家内にその旨を打ち明けたところ、思いの外肯定的に受け入れてくれたのも私の考えに拍車をかけています。終身雇用に対する欺瞞が強くなっている現代において、同じ仕事を続けて怠惰になるぐらいなら、自分がやりがいを感じることのできる職業を手につける方が大事なのかもしれませんね。