独立キャリアデザインを描いた料理人の男性について
私は、小さな頃から「自分の店を持ちたい」という夢を持っていました。
実家は料理店を営んでいました。
小さい頃は、カウンターに立つ父の隣でずっと過ごしています。
そんなことをしているうちに、もはや「大人になること=お店を持つこと」という価値観を持つようになりました。
本来なら私も跡継ぎになるはずでしたが、それは兄に譲ります。
私は、私なりのお店を持つ努力を始めます。
私は調理師学校を卒業したあと、とある小料理店に就職しました。
小料理店では、ひたすら料理の腕を磨くことに打ち込みます。

小料理店での日々は、たいへん充実したものでした。
毎日が新しい発見で、腕前も伸びていくのを体感しました。
料理長は私のことを、すごく可愛がってくれる人です。
私は料理長から、さまざまなことを学びました。
24歳になったころ、私はキッチンでもそれなりのポジションが与えられます。
給料も大きく上がりました。
同時に「この店を継がせられるのでは?」というような評価まで受けるようになります。
しかし26歳のころ、私は独立することにしました。
貯金は500万円。
私はこのお金を元手に、大阪市内で小さな料理店を開きます。
これで私は、晴れて自分のお店を持つことになりました。
独立のキャリアデザインとしては、順調そのもの。
私は人生のピークにありました。
しかし、独立するということは、決して甘くはありませんでした。
とにかくお客が来ないのです。
私はなぜお客が来ないのか、真剣に考えました。
料理の味は、決してライバル店には負けていません。
接客のスキルも、相当なレベルに達していたはずです。
私は価格を下げたり、メニューを増やしたり、いろいろと工夫しました。
それでもお客は、あまり来てくれませんでした。
結局私は、店を開けて1年足らずで、閉店することになります。
500万円の貯金はわずか100万円にまで減少。
失意のまま、大阪を後にしました。
二度目の独立

私はふたたび、以前働いていた小料理屋へ戻りました。
そしてもう一度、修行し直すことに決めたのです。
しかし、どう考えても料理の腕前には、問題がありませんでした。
料理長は私のことを認めてくれているし、若い料理人たちも私を目標としてくれています。
何がなんだかわからないまま、1年が過ぎました。
私はようやくこのとき、「料理人であること」と「経営者であること」は、全く違うということに気がつきます。
今考えれば、当たり前のことです。
しかし当時は若く、「味がよければどうにでもなる」と、本気で考えていたのです。
もう一度やり直そうと、私は修行に打ち込みます。
さらに経営の書籍なども読み、少しでも知識を高められるように努力しました。
小料理屋に戻って3年。
私は30歳になっていました。
料理長は突然、私を呼び出し、「金は出すから、自分の店を持て」と言いました。
「お前ならかならずできる。金を返すのはいつでもいい。しかし若いうちがチャンスだ、今すぐにでも料理店を出せ」と。
私は料理長に心から感謝して、料理屋を開くことにしました。
前回は自分のお金なので、失敗しても自分にしか迷惑はかかりません。
しかし今回は、料理長のお金(と、自分の貯金)が資本です。
絶対に失敗するわけには行きません。
幸いにも私は、ある程度経営のことを理解できるようになっていました。
そしてさらに私は「独立キャリアデザイン」を専門とする経営コーチに指導してもらうことにしました。
経営コーチは、今まで40店舗以上を手がけてきた、ベテラン経営者。
料理人でこそありませんが、飲食店や料理店を、いくつも繁盛させています。
私は経営コーチに、
- 仕入れ
- 値付け
- 教育
- 立地
- 集客経路の確保
- リピート率の向上方法
など、経営の根幹となる知識を叩き込まれました。
私は彼の指導どおり、お店を作っていきます。
場所は、かつて私を完膚なきまでに叩きのめした、「大阪」です。
私は大阪という街で、もう一度勝負することになります。
現在とまとめ
現在、私のお店は、開業5周年を迎えます。
経営者としての学びが功を奏して、なんとか安定した経営が実践できています。

大阪では、「なんばで3年飲食店をやれれば、どこでも生きていける」と言われます。
その噂話によれば、私はどうにか経営者として、ちゃんとやれているようです。
料理長にも、返済できる状態になっています。
とはいえ料理長は、「あの金はやるつもりで渡したものだ。返す必要はない」と言って受け取ってはくれません。
つくづく料理長には、一生頭が上がらないものです。
これが私の、独立キャリアデザインです。
思えば失敗ばかりで、周りの人間に助けてもらってばかりでした。
料理長と、そしてコーチ。
二人がいなければ、私はここまでお店を繁盛させられてはいなかったでしょう。
料理長のような人は、なかなか出会えないものです。
私は、相当に運がよかったのでしょう。
しかしコーチングは、誰にでも受けられるものです。
もし独立を考えているのであれば、ぜひコーチの力を借りるのがよいのではないかと、私は考えます。