海外でのキャリアデザインを達成した女性のエピソード
私は、とある繊維メーカーにおいて、ソリューション部門の一員として働いていました。
ソリューション部門での待遇や業務内容には満足しており、たいへん充実していました。
自慢するわけではないですが、おそらく同期の中ではもっとも成果を残せていたはずです。
もちろん、欠点もたくさんあります。
新しい企画を考えたり、プラン策定したりという能力は、異常に低かったです。
しかし顧客の抱える問題や課題を解決するという能力だけは、どの同期にも負けていませんでした。
このまま私は、結婚するまでこの部門で働くことになると思っていました。
しかし働き始めて5年が経った頃、異動命令が下されます。
私は主任格に昇進しました。
27歳で主任格に昇格するのは、そうあることではありません。
しかし、そんなことはどうでもよくなるほど、大きな変化がありました。
新しい配属先は、「上海支店」だったのです。
実は私は、中国人のクォーターです。
そして中国に住んでいたこともありました。
少しなら、中国語も話せます。
おそらく会社はその点を考え、私を上海支店へ配属したのでしょう。
上海へ

とはいえ、私の中国語はビジネスレベルではありません。
NHKが公表している、中国語の習得度を測る、7段階の指標が存在します。
その中で言えば私は、下から2番目か3番目、「多少は不便するが、なんとか日常生活は送れる」というレベル感です。
もちろんビジネスシーンでの中国語なんて、わかるはずはありません。
私は会社持ちで、中国語のレッスンに通うこととなりました。
もともとある程度中国語はわかるので、ビジネスレベルに成長するまで、さほど時間はかかりませんでした。
レッスンが終わったあと、いよいよ上海へと向かいます。
上海支店の顔ぶれは、ほとんどが中国人でした。
全体で50人ほどのスタッフがいるうち、日本人は2人しかいません。
とはいえども私は中国語を話せるようになっています。
特に問題はなかったはずです。
しかしながら、同じ言葉を喋れるから問題ないというのは、あまりにも見込み違いでした。
文化が違うのです。
中国人は、ものごとに対してたいへんシビアな見方を示します。
私の元に集まってくる顧客も、みな厳しい考え方を持っていました。
日本人顧客に対するソリューションと比較して、難易度はまったく違います。
とにかく顧客を納得させることができず、いつまでたっても話はまとまりません。
さらに中国人の上司は、特に私を助けてはくれません。
彼の仕事に、私を助けるという業務は入っていないのです。
契約書に彼の業務内容はまとめられていて、彼もその契約書どおりで動きます。
日本人のスタッフも、ややアテにしている部分がありました。
しかし彼らは、14歳くらいから中国で暮らしている人たちです。
ほとんど日本の会社文化を知りません。
だから、私を助けるという発想には至らなかったようです。
これは、会社の失敗と言えるはずです。
中国語を知っているという理由で私をアサインしたこと。
中国文化に触れられるような教育をしてこなかったこと。
明らかに会社は、上海支店のことをわかっていませんでした。
とにかく私は仕事がうまくいかず、そして周りからの支援も得られません。
まさに最悪の状況だったと言えるでしょう。
コーチング
それでも、一人だけ私を心配してくれるスタッフがいました。
中国人の女性スタッフです。
彼女は中国人であるにもかかわらず、やや日本人的な考えを持っていました。
だから彼女は自分の責任範囲を超えて、私を助けてくれていたのです。
彼女は、「海外でキャリアデザインするなら、コーチングをつけた方がいいわ」と教えてくれました。
キャリアデザインというほど大それた話ではなく、単にこの悪い状況を打破できれば、それで構いません。
私は彼女の紹介で、コーチと引き合うことになりました。
コーチは日本人でした。
30歳から15年間、上海で勤務し、現在は中国企業で取締役を務めているという、輝かしいキャリアを持っています。
私は彼から「日本人が上海で働く場合のキャリアデザイン」について、教えてもらいました。
私の場合は、顧客対応が主体となる業務をついていました。
「まずは顧客の扱い方を学ぶべきだよ」、と言われます。
中国人の顧客は、やはり何かあれば、厳しく切り込んでくる、深い洞察力を持っています。
だからそれに対応できるように、じゅうぶんな商品知識と契約内容の理解が必要である、とのことでした。
私は自社のサービスと商品を見直し、交わされている契約書の内容を熟読します。
これで中国人顧客からの鋭い切り込みに対して、論理的かつ正当な対応ができます。
一方で中国人は、接客対応などには比較的寛容です。
少々雑な対応をしたとしても、一切気にすることはありません。
一言で言うと、「とにかく論理的であれ」ということです。
論理的に説明すれば、中国人顧客はすぐ納得してくれます。
逆に論理が通っていなければ、謝ろうが、対応が好意的だろうが、話は前にはすすみません。
私は彼のコーチングを逐一実行します。
半年もする頃には、特に問題なく中国文化と折り合えるようにいなっていました。
というように私は、コーチングのおかげで、海外でなんとか働けるようになっています。
キャリアデザインというよりはその場をしのぐためのヒンティングに近いですが、私にとってはそれで十分です。
ただし海外で高いキャリアを作るということなら、最低限、初期段階でコーチングは必要だと思います。
みなさんも海外勤務するのであれば、ぜひコーチングを利用しましょう。