起業を決意した女性。「何のため」を求めてキャリアデザインを再考する
私は新卒でIT系の企業に就職しました。いわゆる「リケジョ」だった私は、その中でもエンジニアの仕事に勤めていました。就職が決まった直後は将来的に仕事が削られる可能性が少ない職種に就くことができたことから、家族は喜んでくれましたし、周囲の友人たちからも褒められました。しかし、実際に仕事を始めてみるまで、その仕事の表層部分ばかりに目がいってしまって、内情というものは分かりません。私も例外ではなく、仕事を続けていくに連れて、徐々に負の側面というものが見えてきてしまいました。
中でも私が不服だったのが、残業のシステムでした。というのも、私が働いていた企業は、基本的に残業代が出ることなく残業を強いられるのが当たり前でした。今思うといわゆる「ブラック企業」だったのです。その上、理不尽な残業が多く、どう考えてもその日のうちに処理できない量のタスクを課され、泣く泣く残業しなければいけないという日が頻発していました。もともと体力にそれなりの自信があった私でも、さすがにこういう日々が続いていたせいですっかり疲れ切ってしまいました。

私は何とか堪えて仕事を続けていたのですが、周囲を見ていると、辞めていく同僚や後輩も少なくありませんでした。彼らは決して逃げたわけではないと思います。むしろ、あまりに理不尽な仕事量を無理してまでこなそうとしている私の方が異常だったのでしょう。嫌なことであっても、一度リミッターが外れれば感覚が麻痺してしまいます。ですがそういった以前の私を今回顧すると、我ながら本当によく我慢できていたなと思うのです。
そんな感覚の麻痺していた当時の私ですが、そういった状況下ではあったものの、結婚に対する不安というものは次第に募り始めていました。家庭をこしらえて家事や育児をする必要が生じてきたら、今の仕事は間違いなく続けられない。それに、こんな激務を続けていたら、本来あったはずの婚期も気がつかない間に逃してしまう。そういった不安と焦りを感じるようになっていました。
そういった仕事を辞める動機が最大限にあった私ですが、すぐに仕事を辞める気にはなれませんでした。というのも、仕事を辞めたところでやりたい事もなかったのです。このような状況下で仕事を辞めるようであれば、親のすねをかじる未来がはっきりと見えていました。かといって、今の仕事を生涯続けていきたいかと聞かれたら、答えはノー。どっちつかずの自分が情けなくなっていました。

こういった葛藤に苛まれる理由は明確で、自分のキャリアデザインが出来上がっていなかったからです。当時そのことに気がついた私は、コーチングを受け、今すぐにでもキャリアデザインを決定することにしました。コーチングを受けた際に勧められたのは、「起業」という大胆な行動でした。ですが私は、「起業ぐらいやらないと何も変わらない」と思い、起業することを決心しました。起業することの大変さは十分承知していたのですが、それ以上に当時の私の生活に対する焦燥感に駆られていました。
決意を固めた私は、貯金もあったのですぐに退職しました。もちろん会社の上司を含め、周囲の人間には強く反対されましたが、その程度で私の決心が揺らぐことはありませんでした。それから間もなくして起業し、新たな生活が始まることになりました。
もちろん、起業するということは一会社の社長になることと同義ですから、社員の頃には経験してこなかった苦労も多いです。また、自分の会社にいる人間は全て「部下」であり、その上彼らにはそれぞれの生活がかかっていますから、私が抱えなければならない責任も大きくなりました。ですが、前の仕事よりもずっとやりがいをもって働けています。苦労や責任など、自分にのしかかってくる重圧も大きくなった分、自分のやらなければいけないことに真摯に向き合うことができています。
私の見解ですが、人生設計、すなわちキャリアデザインを形成するにあたって最も優先すべきことは、自分自身のやりたいことだと思っています。お金のため、家族のためといった、「何かのため」に自分のする事を決めると、後々苦労することになります。自分のやりたくない事をする必要になることもありますが、そればかりに没頭するのは自分の心も体も保ちません。自分の人生なのですから、自分の生き方を優先し、その上でその生き方に必要なものを回収したり、お世話になった方々に還元したりするのが良いのではないでしょうか。

偉そうな教鞭を垂れてしまいましたが、もともと私が起業するきっかけを作ってくれたのはコーチングです。コーチングを受けていなければ、やりたくない事をひたすら続け、そのうちアイデンティティも何もかも失われていた可能性は非常に高いです。それに、今こうやって仕事にやりがいを持って生活できているのもコーチングのおかげです。コーチングを受けて良かったと心から思っています。